分子動力学法では多数の原子・分子の運動を計算し、その結果を統計的に解析することで様々な熱力学量が得られます。・・・という説明はいろんなところで出てくるのですが、その熱力学量って何?ということを解説してみます。
まず、ポテンシャルエネルギー、運動エネルギー、全エネルギー、エンタルピーの関係は以下のようになります。
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次に、それぞれについて説明します。
ポテンシャルエネルギー Potential energy
原子間相互作用、結合長、結合角、静電相互作用などのエネルギーを合計したものです。現実に置き換えると、ファンデルワールス力やクーロン力などの合計です。
ある瞬間の原子配置において原子や分子が引き寄せあったり反発したりする力が計算されますが、そのエネルギーの総量がポテンシャルエネルギーです。このポテンシャルエネルギーが低い場合というのは、原子や分子の配置が安定な状態であるということを意味します。一方でこのポテンシャルエネルギーが高い場合は不安定な状態です。
MD計算では系の平衡状態でデータを取ることが基本ですので、このポテンシャルエネルギーが下がって一定のレンジを揺らいでいるのが理想的な状態です。
運動エネルギー Kinetic energy
原子の速度ベクトルから計算される運動エネルギーの総量です。
$$
K = \sum_{i=1}^{N} \frac{1}{2} m_i v_i^2
$$
原理的には温度と同じ意味です。単位は違いますがグラフ形状は同じになります。
全エネルギー Total energy
全エネルギーはポテンシャルエネルギー+運動エネルギーです。Total internal energyと言う場合もあります。
NEVアンサンブルの理想的なMD計算では全エネルギーが一定になり、エネルギー保存則を確かめることができます。MDに使用する時間刻み幅やカットオフ距離などの設定は精度や計算速度に大きくかかわりますが、この全エネルギー保存を見ることで、より正確に精度を評価できます。不適切な設定やプログラムのバグがあると保存則が成り立たないことがあります。
エンタルピー Enthalpy
全エネルギー+圧力×体積
(ポテンシャルエネルギー+運動エネルギー+圧力×体積 と同じ)
ポテンシャルエネルギーに加えて温度・圧力・体積の変化を考慮した熱力学量です。現実の物理的な変化をより正確にとらえることができます。
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