分子動力学法(molecular dynamics, MD)では、原子や分子をそのまま無限にたくさん置いて計算することはできません。 そこで実際の計算では、有限個の原子をシミュレーションセルに入れて扱います。
ただし、箱を1つ切り出してそのまま計算すると、境界に人工的な壁があるような状況になります。 液体や固体のバルクを見たいときには、これは都合がよくありません。
そこでよく使われるのが、周期境界条件です。 これは、1つのシミュレーションセルを空間に繰り返し並べたとみなして、有限サイズの計算から無限に広い系を近似する考え方です。
この記事では、周期境界条件の意味と、相互作用をどう計算するかを要点だけ整理します。
前回の記事はこちらです。

周期境界条件とは何か
MDでは計算量の都合から、有限個の原子だけを扱います。 ただし、箱をそのまま置くと境界に人工的な壁が入ってしまい、端の原子だけ周囲の環境が変わります。
バルク液体やバルク結晶を見たいのに表面効果が混ざるのは避けたいので、周期境界条件を使います。
周期境界条件では、1つのシミュレーションセルの外側に、同じセルが上下左右前後へ繰り返し並んでいると考えます。 3次元では、1つの基本セルが空間全体に周期的に複製されているイメージです。
つまり、巨大な箱を直接計算しているのではなく、1つの基本セルを周期的に繰り返した系を扱っています。

粒子が境界を越えるとどう見えるのか
周期境界条件では、粒子がセルの右端から外へ出たら、左端から入ってきたものとして扱います。 同様に、上端から出た粒子は下端から、前面から出た粒子は背面から入ってきます。
粒子が消えたり反射したりするわけではありません。 見かけ上は境界で位置が飛んで見えても、周期的に並んだコピーまで含めて考えれば運動は連続しています。
相互作用はどう計算するのか
周期境界条件を入れると、各原子のまわりには無限に多くのコピーが存在することになります。 しかし、全てのコピーとの相互作用をそのまま計算することはできません。
そこで短距離相互作用では、最も近い像を基準に距離を取り、ある距離より外はカットオフするという考え方を使います。
例えば、ある原子Aと原子Bがセルの左右端近くにいるとします。 同じセルの中だけを見ると2つは遠く離れて見えるかもしれませんが、周期的に並んだ隣のセルまで考えると、境界をまたいだほうが近い場合があります。
このときは、AとBの無数のコピーの中から最も近い像を選び、その距離を相互作用計算に使います。

短距離相互作用では、一定距離より遠い相互作用を省略または近似するために、カットオフ距離を設定します。 ただし、周期境界条件の下では、この距離を大きくしすぎることはできません。 大きすぎると、同じ粒子対について複数の周期像が候補に入ってしまうからです。
この問題を避けるため、カットオフ距離は基本セルに内接する球の半径を超えないように選ぶ必要があります。 立方体セルであれば、これは箱の一辺の半分以下という条件になります。
2次元の模式図で言えば、中央セルの中に内接する円を描き、その半径を超えない範囲で最も近い像が一意に決まる、と考えるとイメージしやすいです。 3次元では、この円が内接球に対応します。
周期境界条件の利点と限界
最も大きい利点は、有限個の原子しか扱わなくても、境界のないバルクらしい環境を近似しやすいことです。 そのため、液体や結晶のMDでは標準的に使われます。
一方で、周期境界条件を入れたからといって、有限サイズの影響が完全になくなるわけではありません。 セルが小さすぎると、周期像の影響が強くなりすぎることがあります。 また、長距離相互作用は単純なカットオフだけでは扱いにくく、別の工夫が必要です。
まとめ
周期境界条件とは、1つのシミュレーションセルを空間に周期的に繰り返して、有限サイズの計算からバルクらしい環境を近似する方法です。
ポイントをまとめると次の通りです。
- 壁のある箱のままだと、表面効果が入る
- 周期境界条件では、1つの基本セルを空間に繰り返して考える
- 粒子が境界を越えても、周期的に見れば運動は連続している
- 相互作用距離は最も近い像で考える
- カットオフ距離は基本セルに内接する球の半径以下にする

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