MOPACのPM7・PM6・AM1の違いとは?半経験的量子化学法の選び方を整理

MOPAC

MOPAC を触り始めると、PM7PM6AM1 といった名前をよく見かけます。さらに少し調べると、PM6-D3H4PM6-D3H4XPM6-DH+ のような派生名も出てきます。

このあたりは、公式の説明と派生名が並ぶため、最初は全体像をつかみにくいところです。

  • 迷ったら PM7 を選べばよいのか
  • PM6 や AM1 はもう古くて使わないのか
  • PM6-D3H4X のような派生法は何を補正しているのか
  • PM5 という名前を見たことがあるが、今の MOPAC ではどう位置づければよいのか
  • AM1-BCC の AM1 は、MOPAC の AM1 とどう関係するのか

この記事では、このあたりを整理します。結論を先に言うと、通常は PM7 を第一候補に置けますが、非共有結合相互作用や既存ワークフローとの整合を重視する場面では PM6 系派生法や AM1 も候補に残ります

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まずMOPACのメソッド名は何を表しているのか

MOPAC は、半経験的量子化学法を実装したソフトウェアです。公式サイトでも、AM1、PM6、PM7 などのsemiempirical models を主要機能として案内しています。詳しくは MOPAC 公式ガイドの basics ページ を見ると位置づけを確認できます。

半経験的量子化学法は、ab initio 法や DFT よりも近似を強く入れる代わりに、計算をかなり軽くした方法です。MOPAC の公式な説明でも、これらのモデルは主に

  • 生成熱
  • 平衡構造
  • 反応や相互作用の大まかな傾向

を、低コストで扱うための実用的な方法として位置づけられています。

そのため、MOPAC のメソッド選びは「一番新しいものを盲目的に選ぶ」よりも、何を見たいか、どこまでの精度を期待するか、対象元素は何かで考えるのが基本です。

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まず結論: 通常は PM7 を第一候補にしやすい

MOPAC の公式ガイドでは、デフォルトは PM7 であり、PM7 は most general-purpose and transferable model available と説明されています。該当箇所は basicsPM7 の公式マニュアル で確認できます。

つまり、特別な理由がなければ、

  • まず PM7 で試す
  • うまくいかない理由や、より重視したい相互作用があるなら別法を検討する

という順番で考えると、一般用途の出発点と例外条件を切り分けやすくなります。

これは「PM7 が常に絶対最良」という意味ではありません。あくまで、一般用途の最初の候補として使いやすいという意味です。

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AM1、PM6、PM7 は何が違うのか

これらは全く別系統の理論というより、同じ半経験的量子化学の流れの中にある別世代のパラメータ化として並べると、役割の違いを追いやすくなります。

AM1 は古典的だが、今でも名前を見る

AM1 は古くから広く使われてきた半経験的法です。MOPAC の現行公式資料でも、AM1 は利用可能な標準メソッドとして挙がっています。利用可能メソッド名は keyword 一覧 で確認できます。

今の感覚でいうと、AM1 は

  • 歴史的に非常によく使われた
  • 古い文献や既存ワークフローで今も見かける
  • 周辺手法の名前として残っている

という位置づけです。

ただし、MOPAC の公式サイトが通常用途の第一候補として前面に出しているのは PM7 であり、AM1 ではありません。したがって、新規計算の第一候補として AM1 を選ぶ場面は多くありません

PM6 は AM1 より後の世代

PM6 は、AM1 や PM3 より後の世代にあたるメソッドです。MOPAC の現行資料でも、PM6 は modern MNDO-family models の一つとして扱われています。

実務的には、

  • AM1 より広い元素対応を持ちやすい
  • より新しい学習データや改良を反映している
  • 派生法が多く、用途特化の補正が発達している

という点が大きいです。

そのため、単純に AM1PM6 を比べるなら、まず PM6 を基準にして、そこから AM1 を位置づける方が比較しやすくなります。

PM7 は PM6 のさらに後の一般用途版

PM7 は PM6 より新しい世代で、MOPAC のデフォルトメソッドです。公式マニュアルでは、PM7 には全元素に何らかの分散表現が入っており、一般用途の出発点として使いやすいように整えられています。詳細は PM7 の公式マニュアル を参照してください。

このため、実務では

  • まず PM7
  • 必要に応じて PM6 系派生法

という順番で考えると見通しが立てやすくなります。

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PM6系の派生法は何をしているのか

PM6 のややこしさは、補正付き派生法が多いことです。ここを整理すると、PM6-D3H4PM6-D3H4X の意味が見えやすくなります。

PM6-DH+

PM6-DH+ は、PM6 の結合エネルギー、とくに水素結合の扱いを改善するための補正版です。公式マニュアルでも、binding errors を補正する方法として説明されています。該当ページは PM6-DH+ の公式マニュアル です。

つまり、単純に「PM6 の新しい版」というより、PM6 に水素結合まわりの経験的補正を加えた用途特化版です。

PM6-DH2 と PM6-DH2X

MOPAC の許可メソッド名には PM6-DH2PM6-DH2X も含まれます。ただし、現行の openmopac.net では PM6-DH+PM6-D3H4 ほど個別説明が厚くありません。まずは 公式の keyword 一覧 で名前の存在を確認するのが確実です。

そのため、この2つについては、少なくとも現行の公式導線だけを見る限り、名前は押さえておき、詳細な使い分けは一次資料を個別に確認するくらいに留めるのが無難です。

PM6-D3H4

PM6-D3H4 は、MOPAC 公式資料でもよく出てくる代表的な派生法です。これは

  • Grimme の D3 分散補正
  • H4 水素結合補正

を PM6 に加えたものです。詳細は PM6-D3H4 の公式マニュアル を見ると内容を追いやすいです。

したがって、PM6-D3H4非共有結合相互作用を改善した PM6 系と捉えるとよいです。

PM6-D3H4X

PM6-D3H4X は、PM6-D3H4ハロゲン結合補正を加えたものです。公式資料でも、halogen-oxygen や halogen-nitrogen 相互作用に対する補正が説明されています。該当ページは PM6-D3H4X の公式マニュアル です。

このため、

  • 分散
  • 水素結合
  • ハロゲン結合

のような分子間相互作用を強く意識する用途では、PM7 だけでなく PM6-D3H4X も検討対象に入ります。

PM6-D3 や PM6-D4(H4)

現行の公式資料では、許可メソッド一覧の中に PM6-D3PM6-D4(H4) も見えます。PM6-D3 は D3 と水素結合まわりの補正を組み合わせた系として説明されています。一方で PM6-D4(H4) は、少なくとも今回の確認範囲では詳細説明の導線が強くありません。確認の出発点としては keyword 一覧MOPAC2016 の比較表 が役立ちます。

ただし、通常の利用頻度という意味では、まず押さえるべきなのは

  • PM6-DH+
  • PM6-DH2
  • PM6-DH2X
  • PM6-D3H4
  • PM6-D3H4X

のあたりです。

PM7-TS

PM7 系には PM7-TS という派生名もあります。これは通常の一般用途法というより、遷移状態や barrier height の改善を意識した特殊用途版として見るのが適切です。

公式マニュアルでは、まず PM7 で反応物と遷移状態の geometry を作り、その差分として barrier height を扱う流れが説明されています。したがって、通常の構造最適化の第一候補として PM7-TS を置くというより、反応障壁評価のための特殊な派生として別枠で見る方が適切です。詳しくは PM7-TS の公式マニュアル を参照してください。

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PM5 はどう考えればよいのか

PM5 という名前を見たことがある人もいるかもしれません。MOPAC の公式比較表には PM5 も載っていますが、現行の MOPAC 利用ガイドや通常の推奨フローで中心に置かれているのは PM7 や PM6 系です。比較の雰囲気を見るなら MOPAC2016 の比較表 が参考になります。

また、MOPAC の公式 History では、PM5 は Fujitsu-exclusive semiempirical quantum chemistry features の文脈でも触れられています。該当箇所は MOPAC の history ページ で確認できます。

そのため、記事としては

  • PM5 という名前は歴史的・環境依存的に現れる
  • ただし、現行の MOPAC を新しく使うときの中心的な候補としては PM7 / PM6 系 / AM1 を優先して考える

と整理しておくのが無難です。

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周辺文脈としての AM1-BCC の AM1

ここから先は MOPAC 公式マニュアルそのものというより、周辺ワークフローで AM1 の名前をどう見るかという話です。

AM1 という名前は、MD 用の電荷割り当てで AM1-BCC として見ることがあります。このため、AM1 を「昔の半経験的法」というだけでなく、周辺ワークフローに名前が残っている方法として認識している人も多いはずです。

ここで大事なのは、次の2つを分けることです。

  • MOPAC で AM1 を使って構造やエネルギーを計算する話
  • AM1-BCC のように、部分電荷作成ワークフローの一部として AM1 系の計算が出てくる話

つまり、AM1 という名前を見た = 今でも AM1 が通常の第一候補 ではありません。AM1-BCC で見る AM1 と、MOPAC のメソッド選択としての AM1 は、文脈が違うと整理しておく方が誤解が少ないです。

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計算可能元素の違いはかなり重要

手法選びで実務上とても重要なのが、使いたい元素にそのメソッドが対応しているかです。

AM1 は対応元素が PM6 / PM7 より限られる

MOPAC の公式 Elements Available in AM1 を見ると、AM1 は次のような元素に対応しています。ここでは一部を抜粋します。完全な対応表は Elements Available in AM1 を見てください。

  • H, C, N, O, F
  • Na, Mg, Al, Si, P, S, Cl
  • K, Ca, Zn
  • そのほか Li, Be, Ga, Ge, As, Se, Br, Mo, Cd, I, Hg, Pb, Bi など

のように、対応元素が限定的です。

といった対応を持ちます。とはいえ、PM6 / PM7 と比べると対応範囲は狭いので、「何でも AM1 で扱える」とは考えない方がよいです。

PM6 と PM7 は対応範囲がかなり広い

一方で、MOPAC の公式 Elements Available in PM6 / PM7 を見ると、PM6 と PM7 は AM1 よりかなり広い元素に対応しています。遷移金属も多く含まれ、La や Lu まで含む広い表が用意されています。完全な表は Elements Available in PM6Elements Available in PM7 で確認できます。

この差は実務では非常に大きく、

  • 有機分子中心なら AM1 でも候補に見えることがある
  • 遷移金属やより広い元素系なら PM6 / PM7 側が現実的

という判断につながります。

元素対応は「理論名」ではなく「実装の表」で確認する

ここで注意したいのは、半経験的法の名前だけ見て判断しないことです。実務では、そのソフトのその実装で、その元素にパラメータがあるかを確認する必要があります。

MOPAC を使うなら、最終的には公式の element tables を見るのが確実です。確認先としては AM1PM6PM7 の各ページがあります。

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どう選べばよいのか

ここまでを踏まえると、選び方は次のように整理できます。

迷ったらまず PM7

新しく MOPAC で計算条件を組むなら、まずは PM7 を第一候補にしてよいです。これは MOPAC 公式の基本方針とも整合しています。

向いているのは、たとえば

  • まず構造最適化をしてみたい
  • ざっくり傾向を見たい
  • 特定の非共有結合補正をまだ必要としていない

といった場面です。

分子間相互作用を強く見たいなら PM6系派生法を検討

水素結合、分散、ハロゲン結合の扱いをより意識したいなら、PM6-D3H4PM6-D3H4X のような派生法を検討する価値があります。

たとえば

  • 会合体
  • タンパク質-リガンド相互作用
  • ハロゲン結合を含む系

では、こうした派生法の意義が大きくなります。

古い文献や既存ワークフローに合わせるなら AM1 や PM6 が残る

現場では、常に最も新しい法を選ぶとは限りません。

  • 過去論文の再現
  • 既存データベースとの整合
  • 既存ワークフローが AM1 や PM6 を前提にしている

といった事情では、AM1 や PM6 が残ることがあります。

この場合は、「古いからだめ」ではなく、比較対象や再現対象に合わせるという意味で使われます。

PM5 は中心的な推奨候補としては考えない

PM5 については、少なくとも現行の MOPAC 公式ガイドの流れに沿う限り、通常の中心候補として強く推す必要は高くありません。記事の中では「名前を見かけることはあるが、今の標準的な出発点としては PM7 や PM6 系が先」と整理する程度で十分です。

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よくある誤解

PM7なら常に全面的に最良というわけではない

PM7 は第一候補に置きやすいですが、非共有結合相互作用に特化した補正付き PM6 系が有利な場面はあります。

PM6-D3H4X は PM7 の単純な上位互換ではない

PM6-D3H4X は、PM7 より新しい一般用途法というより、補正目的がはっきりした用途特化版です。比較するときは「どちらが新しいか」より「何を良くしようとしているか」を見るべきです。

AM1-BCC を見たから AM1 が第一候補、ではない

AM1-BCC の文脈で AM1 の名前を見ることと、MOPAC の通常計算で AM1 を第一候補にすることは別です。ここを混同すると、手法選択がややずれやすくなります。

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まとめ

MOPAC のメソッド選びを簡単にまとめると、次のようになります。

  • 通常の第一候補は PM7
  • 非共有結合相互作用を強く意識するなら PM6-D3H4 や PM6-D3H4X を検討する
  • AM1 は古いが、文献や AM1-BCC などの周辺文脈で今も名前を見る
  • PM5 は名前を見かけることはあるが、今の中心的な出発点ではない
  • 元素対応は必ず公式表で確認する

最初の実務的な方針としては、まず PM7、必要なら PM6 系派生法、AM1 は文脈依存、元素対応は必ず確認を出発点にすれば十分です。

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