今回は、2026年10月に発表されたMI関連トピック11件を取り上げます。結晶構造と電子状態を同時に扱う生成モデル、企業間の機密データを使った物性予測、水素吸蔵合金の自動実験が発表されました。計算ソフトでは、MACE、pymatgen、GROMACSに実務上の変更があります。
前回の記事はこちらです。

企業・研究機関の動向
レゾナックとZenmuTech、機密データを開示せずに使うMI基盤を実証
レゾナックとZenmuTechは、企業間で元データを開示せずに解析へ利用できる秘密計算のMI基盤を構築しました。半導体材料の開発テーマでサプライヤーのデータを加えた実証では、レゾナック単独のデータを使う場合と比べ、物性の予測誤差が約78%減少したと報告しています。現時点の結果はこのテーマでの実証であり、他材料への一般的な改善率を示すものではありません。
ソースURL: https://zenmutech.com/information/news/20261026/
水素吸蔵合金の作製から評価までを自動化、1試料2〜3時間に
QST、東北大学、分子科学研究所などは、合金薄膜の作製、水素吸蔵処理、組成分析、水素放出特性の評価を連続して自動実行するシステムを開発しました。従来は1試料あたり2〜3日かかっていた工程を2〜3時間に短縮し、最大10組成を連続評価できます。実験結果をAIが読み、次の組成を決める自律探索は今後の計画です。
ソースURL: https://www.qst.go.jp/site/press/20261023.html
SLAC、放射光施設向け自律実験基盤「SPIRE」の開発計画を発表
米SLAC国立加速器研究所は、試料を扱うロボット、X線・電子線の調整、実験中のデータ解析を連携させる「SPIRE」計画を発表しました。複数の研究施設に応用できる自律実験基盤を目指すもので、今回の発表は完成した材料探索システムの性能実証ではありません。
A*STAR、材料発見から産業利用までをつなぐ「MARVEL-AI」を発表
シンガポールのA*STARは、AIによる候補予測、自動実験、特性評価、製造プロセスの検討をつなぐ材料開発構想「MARVEL-AI」を発表しました。対象は合金、ポリマー・有機材料、セラミックス、複合材料です。発表にある試料処理量などの数値は既存の個別ワークフローの実績であり、新構想全体の達成値ではありません。
研究・論文
MatterGen-e−、結晶構造と局所電子情報を同時に生成
東京大学の研究グループは、結晶構造に加え、原子ごとのBader電荷と電子状態密度を生成する拡散モデル「MatterGen-e−」を発表しました。検証した中で最も厳しいバンドギャップ・生成エネルギーの同時指定では、条件を満たす新物質の生成率が既存モデルの0.9%から3.5%に改善しました。結果は論文の評価条件における計算上の候補生成で、合成の成功率を示すものではありません。
ソースURL: https://doi.org/10.1038/s41524-026-02322-4
CrystalJev、追加計算の価値を考慮して結晶候補を選別
プレプリント「CrystalJev」は、緩和前の結晶構造に対する原子モデルの予測から、安定性の確率と、構造緩和・DFT計算へ進める判断基準を示しました。新しい候補群では既存データに基づく確率の校正がずれることも、2,100件のDFT計算を用いた前向き評価で報告しています。材料候補を単純に予測値順へ並べるだけでなく、追加計算の費用と判断への寄与を扱う研究です。
ソースURL: https://arxiv.org/abs/2610.06985
MLIPのエネルギー・力の損失バランスを制約付き最適化で選択
プレプリントでは、機械学習原子間ポテンシャル(MLIP)の学習でエネルギー誤差と力の誤差をどう両立させるかを、力の損失に上限を設ける最適化問題として扱いました。溶融LiCl、液体水、Siの固定基底ACEモデルで検証し、設定した比較条件では重みを順に探索する方法より短時間で低誤差の領域に到達しています。効果は対象系と学習手順に依存します。
ソースURL: https://arxiv.org/abs/2610.00876
ツール・基盤ソフト更新
MACE v0.3.17、磁性モデルを追加し動作要件を変更
MLIPソフト「MACE」のv0.3.17では、磁気モーメントを扱うMagneticMACEや、PolarMACEの分極率・Fukui関数に関する機能が追加されました。Python 3.11以上、PyTorch 2.5以上が必要となり、旧環境から更新する際には依存関係と削除されたオプションの確認が必要です。
ソースURL: https://github.com/ACEsuit/mace/releases/tag/v0.3.17
pymatgen v2026.10.24、回折計算へ異方的Debye–Waller因子を反映
pymatgen v2026.10.24では、構造に対応するサイトプロパティがある場合、X線・中性子・電子回折の計算に異方的Debye–Waller因子が反映されるようになりました。該当データを持たない構造の計算結果は変わりません。特定の対称性設定や既存のDebye–Waller指定との併用はエラーになるため、既存の回折解析ワークフローでは入力条件を確認してください。
ソースURL: https://github.com/materialsproject/pymatgen/releases/tag/v2026.10.24
GROMACS 2026.4、PMEとPLUMED連携の不具合を修正
GROMACS 2026.4では、複数PMEランクを用いる条件でのメモリ破壊や、MPI並列でPLUMEDを使う際の起動失敗を修正しました。GPUを用いる特定条件で出力される力の欠落や、非結合自由エネルギー計算の力の誤りにも修正が含まれます。該当する計算設定で2026系を使用している場合に重要な保守更新です。
ソースURL: https://manual.gromacs.org/current/release-notes/2026/2026.4.html
計算技術
NVIDIA、PETのMLIP推論でTensor Coreを使う精度・速度評価を公開
NVIDIAは、機械学習原子間ポテンシャル「PET」の行列積をTensor Coreで実行する手法を評価しました。Blackwell GPU上の17,280原子系では、検証したBF16x9設定でMDの1ステップが従来のFP32計算比1.7倍高速になったと報告しています。モデルの新バージョン公開ではなく、特定のモデル・GPU・計算条件での技術評価です。
2026年の国内学会情報
MI、計算化学、材料科学に関連する国内学会・討論会は年間記事に集約しています。開催日や参加登録については、こちらをご確認ください。

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