Quantum ESPRESSO(QE)をWindowsで使用する場合、これまではWSL上にLinux版を導入する方法や、Windows用のコンパイラとライブラリをそろえてソースコードからビルドする方法が中心でした。
この記事では、QMatSuiteプロジェクトが公開しているビルド済みのQuantum ESPRESSO 7.5をWindowsへ導入します。
今回使用するのは、Intel oneAPIコンパイラでビルドされた64ビットWindows向けのネイティブバイナリです。Intel MKL、OpenMP、Microsoft MPIに対応し、実行に必要なランタイムDLLやMPIランチャーもZIPファイルに含まれています。
そのため、WSL、Fortranコンパイラ、Intel oneAPI、Microsoft MPIなどを別途インストールする必要はありません。ZIPファイルをダウンロードして展開し、実行ファイルが置かれたフォルダをPATHへ追加すれば使用できます。
この記事では、ZIPファイルのダウンロードからpw.exeの起動確認までを行います。
使用するWindows版Quantum ESPRESSO
今回使用するパッケージの構成は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| Quantum ESPRESSO | 7.5 |
| 対象OS | 64ビットWindows |
| コンパイラ | Intel oneAPI |
| 数値演算ライブラリ | Intel MKL |
| スレッド並列 | OpenMP |
| MPI | Microsoft MPI |
| 配布ファイル | qe-7.5-win-oneapi-msmpi.zip |
これはWindows上のCPUで実行するためのビルドであり、GPU/CUDA向けのビルドではありません。また、QMatSuiteが配布しているバイナリであり、Quantum ESPRESSO公式プロジェクトが配布しているWindows版ではない点には注意してください。
配布リポジトリでは、実行ファイルへのMicrosoft Trusted Signing、SHA-256チェックサム、GitHub Artifact Attestationも提供されています。
ZIPファイルをダウンロードする
次のReleaseページを開きます。
Quantum ESPRESSO 7.5 Windows版のReleaseページ
ページ下部の「Assets」から、次のZIPファイルをダウンロードします。
qe-7.5-win-oneapi-msmpi.zip
ファイルサイズは約400 MBです。通信環境によっては、ダウンロードに少し時間がかかります。
SHA-256チェックサムを確認する
必要に応じて、ダウンロードしたファイルのSHA-256チェックサムを確認します。Releaseで案内されている値は次のとおりです。
E50EC7368A5B7A964EB5084E0A13464BA2628D4E147C16227E876002EA34FDF7
ZIPファイルを保存したフォルダでPowerShellを開き、次のコマンドを実行します。
Get-FileHash .\qe-7.5-win-oneapi-msmpi.zip -Algorithm SHA256
Hash欄に表示された値が、Releaseページに記載されている値と一致すれば確認完了です。
ZIPファイルを展開する
ダウンロードしたZIPファイルを右クリックし、「すべて展開」を選択します。
この記事では、次のフォルダへ展開したものとして説明します。
C:\qe\qe-7.5-win-oneapi-msmpi
展開先は任意ですが、今後も使用する場合はダウンロードフォルダではなく、固定した場所に配置します。日本語や特殊文字を含まない短いパスに配置しておくと、QEと組み合わせて使用する周辺ツールでパスに起因する問題が起きにくくなります。
展開したフォルダ内のbinフォルダには、pw.exeをはじめとするQEの実行ファイルと、実行に必要なDLLが収録されています。
C:\qe\qe-7.5-win-oneapi-msmpi\bin
pw.exeを直接起動する
PATHを設定する前に、展開した実行ファイルが起動することを確認します。
PowerShellを開き、binフォルダへ移動します。
cd C:\qe\qe-7.5-win-oneapi-msmpi\bin
次のコマンドでpw.exeを起動します。
.\pw.exe
Quantum ESPRESSOの名称やバージョンなど、起動時の固定メッセージが表示されれば、実行ファイルとランタイムDLLは読み込まれています。
今回は入力ファイルを指定していないため、計算が正常終了することまでは確認しません。pw.exeが起動し、Quantum ESPRESSOの冒頭メッセージが表示されることを動作確認とします。
実行結果
Program PWSCF v.7.5 starts on 17Aug2026 at 22: 0:48
Git branch: HEAD
Last git commit: 770a0b2d12928a67048e2f3da8d10d057e52179e-dirty
Last git commit date: Tue Aug 19 09:57:12 2025 +0000
Last git commit subject: Merge branch 'QE-7.5-RC' into 'master'
This program is part of the open-source Quantum ESPRESSO suite
for quantum simulation of materials; please cite
"P. Giannozzi et al., J. Phys.:Condens. Matter 21 395502 (2009);
"P. Giannozzi et al., J. Phys.:Condens. Matter 29 465901 (2017);
"P. Giannozzi et al., J. Chem. Phys. 152 154105 (2020);
URL http://www.quantum-espresso.org",
in publications or presentations arising from this work. More details at
http://www.quantum-espresso.org/quote
Parallel version (MPI & OpenMP), running on 12 processor cores
Number of MPI processes: 1
Threads/MPI process: 12
MPI processes distributed on 1 nodes
0 MiB available memory on the printing compute node when the environment starts
Waiting for input...
入力待ちになった場合は、Ctrl+Cを押して終了します。
一時的にPATHを設定する
現在開いているPowerShellだけでQEのコマンドを使用する場合は、次のようにbinフォルダをPATHへ追加します。
$env:Path += ";C:\qe\qe-7.5-win-oneapi-msmpi\bin"
PATHを追加した後は、別のフォルダへ移動しても、実行ファイルのフルパスを指定せずに起動できます。
pw.exe
この設定は、PowerShellを閉じると破棄されます。動作確認だけを行いたい場合に利用できます。
PATHを恒久的に設定する
QEを継続して使用する場合は、Windowsのユーザー環境変数Pathへbinフォルダを追加します。
- Windowsの検索欄で「環境変数」と検索する
- 「環境変数を編集」を開く
- ユーザー環境変数の
Pathを選択する - 「編集」をクリックする
- 「新規」をクリックする
- QEの
binフォルダを追加する
今回の例では、追加するパスは次のとおりです。
C:\qe\qe-7.5-win-oneapi-msmpi\bin
設定画面を「OK」で閉じた後、PowerShellを開き直します。設定変更前から開いていたPowerShellには、新しいPATHが反映されません。
任意のフォルダで次のコマンドを実行します。
pw.exe
実行されるpw.exeの場所は、次のコマンドで確認できます。
Get-Command pw.exe
Source欄に、今回展開したbinフォルダ内のpw.exeが表示されれば、PATHの設定は完了です。
MPI並列実行について
このパッケージには、Microsoft MPIのランタイムに加えてmpiexec.exeも同梱されています。Microsoft MPIを個別にインストールしなくても、MPI並列計算を実行できます。
入力ファイルを4つのMPIプロセスで実行する場合は、次のように指定します。
mpiexec.exe -n 4 pw.exe -in input.in > output.out
OpenMPのスレッド数は、PowerShellから環境変数で指定できます。
$env:OMP_NUM_THREADS = "4"
$env:MKL_NUM_THREADS = "4"
MPIとOpenMPを併用する場合は、MPIプロセス数とスレッド数の積がCPUのコア数を大きく超えないように設定します。
実際の計算に必要なもの
ここまでの作業では、QE本体の起動だけを確認しました。実際に第一原理計算を行うには、別途次のものが必要です。
- QE形式の入力ファイル
- 計算対象元素の擬ポテンシャル
- 計算結果を保存するフォルダ
- カットオフエネルギーやk点などの計算条件
擬ポテンシャルは、計算に使用する交換相関汎関数や目的に合ったものを用意します。
まとめ
QMatSuiteが公開しているWindows版Quantum ESPRESSOを使用すると、ソースコードのビルドやWSLの準備を行わずにQE 7.5を導入できます。
必要な作業は、ReleaseページからZIPファイルをダウンロードし、固定したフォルダへ展開して、binフォルダをPATHへ追加することです。Intel oneAPI、MKL、Microsoft MPIの実行に必要なファイルも同梱されています。
Windows PCでQEを試したい場合や、教育用途、手元での比較的小規模な計算環境を準備したい場合に利用できる配布パッケージです。


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